数学ガール/乱択アルゴリズム

数学ガールの最新刊,乱択アルゴリズムが地元の図書館に入っているのに気づいたので,先週末に借りてきて,週末にさっくり読み終わりました.このシリーズは第一作第二作(フェルマーの最終定理)第三作(ゲーデルの不完全性定理)とずっと読んでいて,時系列的にはその続編(第四作)に当る作品です.
第四作のテーマ(ゴール)は 3-SAT [Scheming 99]クイックソート [Hoare 62] の乱拓化.今回は自分の専門に近いということもあり,物語の筋を愉しむ方に比重をおいて読みすすめましたが,それでも十分に楽しい内容でした.テーマを決めて議論を積み重ねる形で最終的なテーマに迫る本の中には,論理の階段の高さが突然変わって読者を置き去りにしてしまうものも少なくないのですが,このシリーズではいつも丁寧に階段が積み重ねられていて素敵です.逆に言うと(自分も含めて)いい加減な理解で知識を積み重ねてきた人は,自分の理解の足りないところに自然に気づくこともできます.数学の背景知識に差がある複数の登場人物を通して,問題を多角的・重層的にとらえるという著者のアプローチは今回も成功しており,幅広い読者を獲得することに成功していると思われます.文体に品があるのも良い感じで,特に,博士の愛した数式を連想させる,数学を現実世界に投影した比喩が散りばめてあるのも読んでいて心地良いです.
英語の文脈で,同じような試みをした本に,ロジャー・パルバースほんとうの英会話が分かる−ストーリーで学ぶ英語表現−(シリーズ三作目)があります.読んだのは学生の頃なのでもうかなり昔ですが,今回数学ガールを読んでいて,なんとなくこの本のことを思い出しました.こちらは,スラング、クリーシェ、ことわざ・格言、キャッチフレーズ・モットー・スローガン・ジングル、婉曲語法、イディオム、ユーモアなど,学校文法と実際の英会話との溝を埋める知識を(英語の運用能力に差のある)4 人の登場人物の会話を通して具象化しています.この本における物語(読み物)の比重は数学ガールシリーズよりは弱かったように記憶していますが,とても良い本でした.こちらはこちらで,文学(物語)と英語(知識)の間を行き来する楽しみを味わえます(シリーズがここで終わってしまったのがとても残念).
物語を読むのも,知る/考えるのも好きな自分にとって,それらを同時に愉しめる本がシリーズとして続いていくのはとても嬉しく思います.