歩道では歩行者は自転車に道を譲るべきではない

昼頃,東京の都心部で,幅がせいぜい 1.5m ぐらいの狭い歩道を歩いていたら,後ろからしつこくベルを鳴らし続ける自転車乗りがいた.あまりにひどいので(狭い)歩道でベルを鳴らすなと言ったら,聞こえるならどけとか言ってきて,トラブルになった.連れらしき女性が,もうやめなよ,となだめても(歩道でベルを鳴らして歩行者を蹴散らすのが正当な行為と信じているらしく)警察に行こうとか言ってくるので呆れてしまった.自分が正しいと主張していることが,自動車で左折時に,青信号で横断歩道を渡っている歩行者に向けてクラクションを鳴らすのと同程度の迷惑行為であることを,全く理解できないようだ.

自分は普段,歩道を歩くときは,後ろから来る自転車乗りがベルを鳴らしても一切避けない*1ことにしている.後方からのベルは基本的に聞こえないものとして(状況によっては後方から迫る自転車がベルを鳴らしていることを確認することもあるが)そのまま歩き続ける.もともと法律的には自転車(軽車両)は原則,車道を走らなければならず,歩道を走れるのは,車道を安全に通行できない場合(十三歳未満の子どもや七十歳以上、身体障害者が運転する場合や,自転車通行可の歩道,あるいは車道からの緊急避難の場合)に限られており,歩道で歩行者が自転車を優先する必要も義務もない.逆に,自転車の方が歩道では徐行・停止・下車し,歩行者の歩行を妨げないようにする必要と義務がある.少なくとも,自転車が後方から迫るという状況においては,自転車側がブレーキを使って歩行者に危害を加えないよう安全に減速することは,当然期待して良い.*2

残念ながら,この事実は日本では正しくは理解されていないようだ.個人的には,このような現状を作り出した原因の一つに,歩行者の側の短絡的な善意があると考えている.歩行者が歩道で善意で自転車に道を譲ったりすると,歩行者を障害物とみなして車道と同じように走っても良いと自転車乗りが勘違いする.歩道を車道に置き換えてみると,これは赤信号を無視する歩行者(歩道で無謀運転をする自転車)が道を渡るのを車(歩道における歩行者)が一時停止して待っているようなものである(普通は危険であると警告する).自転車が歩道で乱暴な運転をするのは,そのような(歩道を安全に歩く権利を放棄した)善意の歩行者にも一因があると言える.歩道を自転車が走ることを警察が黙認していたのが悪いとか,自転車乗りにモラルが欠けているからだとか何でも人のせいにするのは簡単だが,歩行者は歩行者なりに歩道での自分の行動を省みた方が良い.

ちなみに,自転車のベルは自動車のクラクションと同様に警笛として取り付けが義務化されているが,その使用場面は大きく異なっている.自動車では警笛区間や危険な場合を除いて警笛を鳴らすことは道路交通法で禁止されている.自動車免許を持っている人は,普通はクラクションを鳴らさないで済むよう運転しているはずである.ところが,自転車は,自分の思い通りの運転ができないときには(止まるのが車より容易であるにも関わらず)むしろ威嚇手段として繰り返しベルを鳴らす.現状では,歩道しか走らない場合は自転車にベルをつけない方がむしろ安全のような気がする(鳴らす状況で減速・停止するしかなくなる).警笛というものは本当に注意を促すべき時に限って鳴らさないと意味が無い.車道でも,信号を守ってベルを鳴らされる - ny23の日記のように,おかしな使い方をしている人もいるけれど.

実際のところは,日本の交通事情で,免許を持たず道路交通法を知らない人にまで自転車で車道を走れというのは無理があると思うし,やむを得ず狭い歩道でも通行するのも仕方がないと思う*3.ただ,そういう場合には,潔く自転車を降りて押して歩く,すなわち歩行者として歩道を利用する,という選択肢が自転車乗りには許されている.

*1:実際のところ,後ろが見えない歩行者にとってみると,ベルが聞こえたら左右にブレたりせずそのまま真っ直ぐ歩くのが一番安全だったりする.止まって振り返るのも,その場でクルッと振り返らない限り案外危ない.

*2:例えば,車道で制限速度通りに走っている前の車に対して,自分がもっと速く走りたいからと言って,クラクションを連打するだろうか.交通規則というものは,それに則って行動する人がいなくなると形骸化してしまう.この場合,聞こえているならどけというのと,見えているなら減速しろというのと,どちらが正しいかは言うまでもない.

*3:ただ車道を走れと言っても,自転車が軽車両であることを理解しない人は逆走をして車に迷惑をかけるだけだったりする.そもそも,歩道ばかりを自転車で走るような人が,車道の進行方向右側にある歩道か,左側にある歩道か,意識して走っているとは思えない.そういう人が(混んでいる)歩道から車道に出ようとすると,50%の確率で逆走になってしまう.こういう感覚は,車の運転の経験があり,かつ普段から自転車で車道を走る習慣がないと身につかないように思う.